Vol.40 教えないから人が育つ

今週は高知に来ています。

全国に300店舗以上あるトヨタ車のディーラーの中で、
12年連続顧客満足度一位を獲得しているネッツトヨタ南国さんの視察と、
この会社をそこまで育てた取締役相談役の横田英毅さんや、社員の方々の
お話を伺っています。

ネッツトヨタ南国の人材育成は「教えないから人が育つ」と言われ、
「教えない」ことが徹底されています。
これは「教えすぎると人は育たない」という哲学の裏返しだそうです。

「教えない」というのは、まったく何も教えずに放置をするという
ことではなく、新入社員や後輩には必要最低限のことを教えた後は、
社員全体で見守りながらも、徹底的に自分で考えてもらうという
意味だそうです。

たとえばある女性社員の方は、新人の頃、ショールームに
いらっしゃったお客様に「足音がうるさい」と言われたことが
あるそうです。

入社したばかりで慣れないヒール。
多いときは1日2万歩も歩くこともある立ち仕事で、気づかないうちに
足音がたってしまうようになっていたようです。

そこでその女性が、お客様に居心地よく過ごしてもらいたいという思いから
「どうしたら足音をたてずに歩くことができるでしょうか?」
と先輩にアドバイスを求めると、、、

「どうしたら足音をたてずに歩くことができると思う?」
と返されたそうです。

そんなお話を聞きながら見学をしていた昨日。
お客様からお預かりした車が数十台とめてある一角で
「このスペースは、駐車ラインを引いていないのが特徴です」
と説明を受けました。

そこで私は、「どうして駐車ラインを引いていないのですか?」
と質問しました。
明らかにラインを引いたほうが、駐車の際にぶつかったりすることもなく、
スペースを無駄なく使えると思ったからです。

すると「どうして駐車ラインを引いてないと思いますか?」
と返されました。

また、お客様がいらっしゃるショールームから見える整備スペースの床は
御影石でできているそうです。
この御影石はすべりやすいし、オイルがたれると石にしみこんでしまう
そうです。

「どうしてわざわざそういった床材にしたのですか?」とたずねると、
もちろん「どうしてだと思います?」と返ってきます。

これにはハッとしました。

私たちは日ごろ無意識に、反射的に、わからないことの答えを
自ら考えようとすることなく、知っているであろう人にたずねたり、
もしくはGoogleで検索したりしているのだな、と。

駐車ラインや御影石の床について自分なりに「どうしてだろう?」
と考えてみても、答えが見つからず、
ふがいないながらもたずねてみると、、、

駐車ラインがないのは、線があると、社員の方がそこにとめさえ
すればいいと、周りのことを見なくなるけれど、線がないことによって、
他の車を無理なくとめたり出したりするためのスペースの余裕を考えたり、
多くの車をとめるにはどうしたらいいかを、考えたりするように
なるからだそうです。

また、御影石の床は、オイルがしみになるまでほうっておかなければ
いいし、そもそも上手いメカニックはオイルをたらさないよねと、
社員の方々の話し合いによって、お客様から見える整備スペースの床を
より美しく見える材質にしたのだそうです。

ちなみに、先の女性は、足音を立てずに歩くために、本で調べたり、
先輩の姿を見たりしながら自分で工夫をしたそうです。

ネッツトヨタ南国での仕事は、一事が万事このような形だそうです。
早い段階から、指示命令がなく、いろいろなことを「考え抜く」ことで、
創意工夫をしている社員。

そうでない会社と比べて、どちらが仕事に対してのコミットメントが
高いでしょうか?

そもそもどちらが仕事を楽しめるでしょうか?

「楽しく働きたい」と、きっと多くの人が思っていると思います。
その「楽しさ」とはいったい、どんなものでしょうか?

楽(ラク)な仕事と楽しい仕事の違いを、教えられた気がします。

(DODパートナー:大前みどり)