コラムvol.131「乳がん治療を乗り越えて」

私事ですが、コロナ禍の中のんびり過ごしていた2020年末に乳がんが発覚し、1年近くかけて、手術、化学療法、放射線療法、ホルモン療法と治療を行いました。まだまだ経過観察中ではありますが、治療を終えて2年近く経ち、今は気力も体力も、全て抜けた髪の毛も、ほぼ元通りに回復しています。

治療中も、オンラインを中心に細々と仕事は続けて参りましたが、ずっと対面で続けてきた仕事があります。神奈川県のとある高校で「総合的な探究の時間」という週2回の授業を、年間を通してお手伝いして3年目になりました。高校生たちと哲学対話をしたり、生徒一人ひとりが立てる問いについての探究をサポートする役割です。

哲学対話を始めたのは4年前ですが、これまでワールドカフェを始め様々な対話の場をつくってきた際に感じていた課題意識に対して、多くのヒントを得ています。たとえば、参加者が対話の場に参加する際に聴くことと問うことをどうしたら習熟していけるのか?ということについて。それから先の見えない不確かな時代のなかで、自分の頭で考え自分の意見を持つことの重要性について。

そういった私たちが共に向き合わなければならない課題に、哲学対話の実践は様々な示唆を与えてくれます。私たち一人ひとりが、答えがすぐに見つからなそうな問いについて自分の頭で考えること、他者とともに考えること、何かあっても対話的態度で向き合えることは、これからますます重要になると考えています。

欧米の企業ではチーフ・フィロソフィ・オフィサー(CPO)と呼ばれる哲学者の雇用が広がっています。日本においても、哲学者が企業に対して哲学コンサルティングを実施したり、パーパスの設定や浸透のために哲学対話を実施したりと、導入が進んでいます。そこに共通するのは、当たり前を疑い、そもそもを問うという姿勢です。前に進もうとするのではなく、後退しながら事業の根底にある価値を考えていくのです。これは今まさに、すべての組織において必要とされることではないでしょうか。

哲学対話の実践を重ねる一方で、やはり病気になったことで、これまでよりも一段と真剣に、残りの人生で自分は何をしていきたいのかということを考えざるを得ませんでした。与えられた命の時間を何に使うのか?という問いに向き合い続けました。

その際に大きな助けになったのが、以前受けたMBTIという国際規格の性格検査を基にしたセッションでした。ベーシック、アドバンス、STEP2とすべてのセッションを受けたことで、自分が本来持っているタイプを十分に理解し、どのような仕事や状況において自分のエネルギーがうまく回るのかということを、大きな納得感を持って理解ができたのです。

そこで、自分と同じように人生の転換点にいる方や、自己理解を深めたいという方に、同じような体験を提供したいと思い、乳がんの治療が終わってすぐ、MBTIの検査やセッションを扱える認定を受けるためのトレーニングに参加しました。ところが、いざ理論や背景を学んでみると、想像以上に奥の深い世界が広がっており、生半可な気持ちでは提供できないなと感じました。ベースとなっているユングのタイプ論の理解を深めたり、さらなるトレーニング講座を受講したり、関連分野について学んだりなど、実際にセッションを行うために1年近く準備をしました。そしてやっとこの9月から、グループセッションの提供を開始することになりました。

2009年に独立してからこれまで、企業のなかで対話を通して風通しを良くしたり、経営理念の浸透を促進したり、などの他、地域の方々と世代を超えた対話の場のファシリテーションを行ってきました。対話の場を増やすこと、対話の場を通して対話的な態度を身につけられる人が増えることは、私のなかでこれからもずっと変わらないビジョンです。

関連して、今後は次の2つの事業に、さらに力を入れて行こうと思っております。

1)企業、地域、学校における哲学プラクティス(哲学対話や哲学カフェ)の実践
2)MBTIを活用した自己理解のためのセッションの提供

がんという病気を乗り越えて、自分の人生の残り時間を考えたとき、これをやらないと後悔するとはっきりわかりました。
もし取り入れてみたいという方は、ぜひ遠慮なくお知らせください。

(DODパートナー 大前みどり )