コラム vol.121「なぜ?を問わないメタファシリテーション」
あるとき、Amazonで本を探していて偶然、こちらの本に出合いました。
本といっても、118頁の薄い小冊子のようなものです。
『対話型ファシリテーションの手ほどき』中田豊一 (著)
www.amazon.co.jp/dp/499081472X
仕事がら、対話やファシリテーションの本はかなり目を通していましたが、こちらの本は初めて手を取りました。
この本で紹介されている「メタファシリテーション」とは、二十数年に渡る国際協力の現場の活動から生み出された課題発見・解決のための対話法です。
アジアやアフリカなどにおける村人の自立を支援する活動の中で、援助する相手から出てくるのは「あれが欲しい」「これが足りない」という依存的な要求ばかり。その状態から、相手に気づきをもたらしたり、村人たち自らが課題を分析することができるような対話法を体系化したのが「メタファシリテーション」だそうです。
この手法の大きな特徴は
「なぜ?どうして?」と聞きたくなったら、それを一度飲み込んで、「いつ?」「どこで?」という質問に置き換えて質問すべし
というものです。
前回のコラムにも書きましたが、何か問題があると「なぜ?」を問うことが当たり前となっていた、もしくは重要だと思っていた私にとっては、まったく逆からのアプローチでした。
本を読んでみたものの「言っていることはわかるけど、でもよくわからない」という状況だったので、研修に参加してきました。そこで体験的に、なるほど、そういうことかという理解が深まったのです。
なぜ、「なぜ?どうして?」と聞くことを避けるべきなのかというと、私たちは「なぜ?」と聞かれるとつい「言い訳」をするようにできているからです。
相手は、自分勝手な安易な原因分析をその場で始めてしまいます。
あるいは、自分ひとりですでに分析している答えをもう一度その場で始めてしまいます。
実際のところそれは本人の考えでしかなく、語っている本人にも、事の真偽が定かではないということが往々にしてあります。
例えば、いつも遅刻をしている社員がいるとします。
その社員に対して「なぜ遅刻したの?」を聞いても、本人は「責められている」と感じ、言い訳を考えて、それを話すだけです。
これでは、「遅刻をする」という改めたい行動が勝手に治ることはありません。
そんなときは(本人が考える)理由を聞くのではなく、「いつ?」「何?」などの「事実」を聞いていきます。
「昨日は何時に寝たのですか?」
「○時です」
「〇時に寝る前は何をしていたのですか?」
「ゲームをしていました」
「ゲームを始める前は何をしていたのですか?」
「ごはんを食べながらテレビを見ていました」
「テレビは何時ごろから見始めたのですか?」
などと具体的な事実を確認していくうちに、本人が
「何も考えずぼーっとテレビを見たり、ゲームをしていましたが、そんなに長い時間ゲームをしていて寝る時間が遅くなったら、寝坊してしまいますよね。テレビやゲームの時間を意識して短くしてみます」
と自分で気づいて、次の行動を考えることができるようになっていく、というのがこの手法の特徴です。
現実はこんなにうまくいくものでもないでしょうし、本人が尋問されているような感じがしないように工夫をする必要がありますが、このようにメタファシリテーションは、簡単な事実質問によるやりとりを通して相手に気付きを促し、その結果として、問題を解決するために必要な行動変化を当事者自らが起こすように働きかけることができるのです。
大事なことは、「本人が気付くこと」で、その気付きが「行動変化」のための大きなエネルギーになるということです。
このようなかかわりが特に有効だと思ったのは、子育てや部下育成。
「なぜ?」ときいても言い訳を引き出すだけ。
「いつ?何?」をきくことで、事実を引き出し、その事実をもとに本人が自発的に考えて行動するのを待つ。
待つことには辛抱が伴いますが、本当に人の成長を望むのであれば、これは使わない手はないと思いました。
早速、夏休み明け、いつもなかなか朝起きない自分の子供に、試してみたいと思います。
その他にも、「メタファシリテーション」には現場での思考錯誤から生まれた様々な知恵が活かされています。
内容にご興味のある方はぜひ、本を手に取ってみてください。
『対話型ファシリテーションの手ほどき』中田豊一 (著)
www.amazon.co.jp/dp/499081472X
(DODパートナー 大前みどり )