コラム vol.124「対話の記憶を重ねる」

「誰との、どんな対話が強く印象に残っていますか?」

ときかれたら、あなたはどんなシーンが思い浮かびますか?

私は、初めてワールドカフェを体験したときのことや、クライアント企業の社員さんたちと心を開いて話したこと、ワークショップで伺った小学校での児童たちとの対話、最近参加した勉強会での対話、進路について子供たちと話したこと、などが思い出されます。

これらの体験に共通しているのは、その場を経験する前と後で、「自分が変わった」という実感を得たことです。「気づきを得た」ともいえるのかもしれませんが、もう少し深く自分の中で変化があったような感覚があります。
抽象的になりますが、「時間」や「自分」という枠がはずれ、その場にいる人たちから生まれる言葉の泉のなかに自分がいったん沈んで、あたかも新しい自分が浮かんできたような感じです。

そんな風に、対話にまつわる体験は、きっと人それぞれに独特の質感、感覚を持って記憶されているのではないかと思います。


本を読むこともまた、著者との対話です。
最近、対話に関する本を集中的に読んだり、読み直したりしていたのですが、その間は、受動的に読んでいるだけではなく、著者の体験や考えを自分のなかに取り込んで、自分の対話のイメージを描き足したり、書き換えていくということが行われていた気がします。

気になったところを引用すると、

●平田オリザさんの『わかりあえないことから』

>「対話的な精神」とは、異なる価値観を持った人と出会うことで、自分の意見が変わっていくことを潔しとする態度のことである。

●若松英輔さんの『本を読めなくなった人のための読書論』

>「対話」と呼ぶべき出来事が起こるときには、あるいは「対話」であるためには、いくつかの条件があります。
・偶然であること-何かを準備したから起こることではなく、偶然から「対話」になることが多い。
・突然に起こること-何のまえぶれもなく、重要な出来事が起こることがある。
・一回しか起きない-二度、同じ「対話」を繰り返すことはできない。
・持続的に深化する-対話は、ゆっくり時間をかけて深まっていく

●暉峻淑子さんの『対話する社会へ』

>特定の人とある目的を持って話し合われる対話に特徴的なのは、個人の感情や主観を排除せず、むしろその人の個性とか人格を背景に、自己を解放した話し方が行われている点です。
対話には、(中略)ある論点が何度も発展的に往復するうちに、お互いにとって自然な発見があり、大きな視野が開けるところに特徴があります。結論を得られなくても、対話後にも長く続く問いかけがあり、何年もたってから、その対話の大きな解が得られる場合もあります。


こういった聡慧な著者たちの言葉に、「なるほど」「まさにその通り!」「これってどういうことだろう?」と思ったりしながら、自分の中の対話観を深め、豊かにしていくわけです。
自分自身の「対話の記憶」がより「積み重なっていく」、ともいえるでしょうか。

大切なことは、ここまで書いたことすべてにおいて、「私」一人では体験も実感もできず、変化も意味も、何も生み出すことができないという点です。
言い換えると、対話には「あなた」と「私」という、自分以外の他者が必要であるということです(自己対話という意味では可能かもしれませんが、それでも、自分の中のもう一人の自分と対話する必要があります)。



対話に関しての金字塔的な一冊、デヴィット・ボームの『ダイアローグ』は、日本では2007年に発売されてから対話の本質を語る本として読まれ続けていますが、第2章の「対話とは何か」は次のような文章で始まっています。

>対話グループを立ち上げる場合、普通は対話について話すことから始める―対話について議論し、対話する理由について話し合ったり、対話の意味を考えたりするのだ。(中略)そうしたことに関心がある人たちは、対話を続けられるだろう。自分のしていることが対話と呼べるか否かについては、あまり心配すべきでない。




そこで、今回、ボームの本にあるようにじっくりと「対話する理由について話し合ったり、対話の意味を考えたりする」場を企画しました。

ワールドカフェ、アクティブブックダイアローグ(R)、哲学カフェという「集合的な知が生まれる対話の方法」を組み合わせ、対話を通してその本質を体感できるような、一人ではたどりつけない場所へ旅に出るような場になればと思います。

●11/10(日)
対話について対話する秋の1日
http://world-cafe.net/event/post-123.html

全体として、対話についての個々の体験やイメージの共有→対話についての理解の深化→場から出てくる深い問いについての対話、と進んでいきます。そのダイナミズムをぜひ、体感しにいらしてください。


(DODパートナー 大前みどり )