コラム vol.117「受け入れられている安心感」

先月の北海道胆振東部地震では、多くの貴重な命が失われ、液状化や停電により、大きな被害が発生しました。

亡くなられた方々にお悔やみ申し上げますとともに、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。
1日も早く、心穏やかな暮らしが戻りますよう、祈っております。

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地震の前日、北海道の浦河町にある「べてるの家」を訪問していました。

べてるの家は、1984年に設立された精神障害等をかかえた当事者の方々の地域活動拠点です。
生活共同体、働く場としての共同体、ケアの共同体という3つの性格を有しており、100名以上の当事者の方がその地域で暮らしています。

※べてるの家とは?
https://bethel-net.jp/?page_id=9

特徴的なのは、その「理念」です。

・三度の飯よりミーティング ・安心してサボれる職場づくり
・自分でつけよう自分の病気 ・手を動かすより口を動かせ
・偏見差別大歓迎 ・幻聴から幻聴さんへ ・場の力を信じる
・弱さを絆に ・べてるに染まれば商売繁盛 ・弱さの情報公開
・公私混同大歓迎 ・べてるに来れば病気が出る ・利益のないところを大切に
・勝手に治すな自分の病気 ・そのまんまがいいみたい ・昇る人生から降りる人生へ
・苦労を取り戻す ・それで順調

といった理念を掲げ、多くの取り組みが行われています。

理念の主旨や活動の詳細などは、ぜひべてるの家に関連する書籍などをご覧いただければと思うのですが(それだけでも気づきがたくさんあります!)、今回見学に伺って、これらの言葉の背景を「身体で感じる」ことができました。

まず、到着して作業所に入ると、みなさんが気さくに話しかけてくれて、作業されている内容について丁寧に説明してくれます。
初めてあった方々なのに、すぐに打ち解けた空気が生まれ、「歓迎されている」というのとも少し違う「受け入れられている安心感」を感じました。
「ここには誰が来てもいいんだよ」、「誰が来ても受け入れるよ」という空気感が、その場にしっかり存在しているのです。

そして、夜には入所者の方々とバーベキューをしながらの懇親会。
お話を伺っているだけでも楽しかったのですが、盛り上がってくると次々にみなさんが前に出てアカペラで歌を歌い始めました。
果たして自分がこの場で前に出て歌を歌えるだろうかと思うと、とてもじゃないけどできない!と思いました。
これも普段から、ミーティングを通して自己開示をし、お互いによい関係を築けてているからなのだろうと思います。

翌日も、最後にお別れをする際に、口々に「また来てね!」と気さくに声をかけてくれて、一緒に写真をとりました。
最後、バスが見えなくなるまで見送ってくれる姿は、田舎のおばあちゃんちを思わせるものでした。

帰りのバスや飛行機で、心の中に生まれたあたたかい包まれるような感情について考えました。
そして。
これを「心理的安全性」というのだなと、身体と心を通して、実感しました。

現在、べてるの家の取り組みは、精神保健の分野だけでなく、経営や組織づくり、まちづくりなど、様々な分野から注目されています。
私自身も以前から書籍を読んで感銘を受けていましたが、参考になる事例として客観的に見るのと、身体と心を通してその場を感じることでは、雲泥の差があるのだなということを実感しました。

とはいうものの、この空気をつくりだすことは、たやすいことではありません。
これからもその実感を思い出しながら、研鑽を続けたいと思っています。

ご興味のある方、場づくりの参考にしたいという方は、ぜひ一度見学に行かれることをお勧めします!
https://bethel-net.jp/iko.html

(DODパートナー 大前みどり )