わたしたちの中での「対話」とは?

対話

ワールド・カフェ・ウィーク開催にあたって、「対話(ダイアログ)」が一つのキーワードになっています。 とは言っても、一人ひとりが思い描いている「対話」の意味は、必ずしも同じではないかもしれません。

そこで、わたしたちが参考にしようとする「対話」の概念について、イメージを共有するために、理論家や実践家の語りを並べてみました。

この「対話」という言葉に、私は一般に使われているものといくらか異なった意味を与えたい。意味をより深く理解するには、言葉の由来を知ることが役立つ場合が多い。「ダイアローグ(dialogue)」はギリシャ語の「dialogos」という言葉から生まれた。「logos」とは、「言葉」という意味であり、ここでは「言葉の意味」と考えてもいいだろう。

「dia」は「~をとして」という意味である―「二つ」という意味ではない。対話は二人の間だけでなく、何人の間でも可能なものなのだ。対話の精神が存在すれば、一人でも自分自身と対話できる。

この語源から、人々の間を通って流れている「意味の流れ」という映像やイメージが生まれてくる。これは、グループ全体に一種の意味の流れが生じ、そこから何か新たな理解が現れてくる可能性を伝えている。この新たな理解は、そもそも出発点には存在しなかったものかもしれない。それは創造的なものである。このように何かの意味を共有することは、「接着剤」や「セメント」のように、人々や社会を互いにくっつける役目を果たしている。

出典:『ダイアローグ』デヴィッド・ボーム著

対話では勝利を得ようとするものはいない。もし、誰かが勝てば、誰もが勝つことになる。

出典:『ダイアローグ』デヴィッド・ボーム著

ダイアローグは、人々に対し互いの意見に同意させるものではない。そうではなく、「意味の共有化」という泉へ引き込み、緊密に協力する行動へと導くものだ。マサチューセッツ工科大学のアイザックスとその研究グループによって確認されたとおり、そのように意味が共有化されると、人々は、たとえ理由について賛同していなくても、協調的で効果的な行動をとることができ、またとるようになる。

出典: 『シンクロニシティ 未来をつくるリーダーシップ』 ジョセフ・ジャウォースキー 著

ダイアローグにおける目標は、特別な環境を生みだして、部分同士のあいだで新しい種類の関係を作用させ、高いエネルギーと高い知性の両方が現れるようにすることなのである。

出典: 『シンクロニシティ 未来をつくるリーダーシップ』 ジョセフ・ジャウォースキー 著

必要なのは人と人との飾らない、誠実な対話。瞑想や交渉ではありません。問題を解決するための議論でもありません。気取らない本音の対話。みんなに話す機会があり、自分の声をきいてもらっているという実感があり、ひとりひとりが互いの言葉に真剣に耳をかたむけるのです。

対話を通してこの深い領域にふみこむためには、いくつか新しい態度を身につけなければいけません。次にあげたのは、実際の対話に入るまえに、ぜひ心に留めておきたい原則です。

①互いに対等の存在であることを認める。
②相手に対してつねに好奇心を持つように努める。
③良い聞き手になるためには、互いに助け合うことが必要であると理解する。
④急がずに、考えたり振り返ったりする時間をとる。
⑤語り合うことは人間がともに考えるための自然な道であることを思い出す。
⑥ときには混乱も覚悟しておく。

出典: 『もしも、あなたの言葉が世界を動かすとしたら』 マーガレット・ウィートリー 著

アパルトヘイトを解決に導いたファシリテーターのアダム・カヘンは、新しい未来を創造するためには、内省的で生成的な対話へ移行し、オープンな方法を選択しなければならないとしています。

そのために何から始めるべきか?という10の提言が下記です。

一.あなたの状態や、あなたがどう話し、どう聴いているのかに注意を向ける。 自分独自の前提、反応、習癖、懸念、先入観、そして想定していることに気づく。

二.率直に話す。 あなたの考えていること、感じていること、望んでいることに気づき、それを言う。

三.あなたは真実について何も知らないということを覚えておく。 現状について理解していると確信をもっているときでも、「私の意見では」という一言を付け足す。自分をあまり過信しないこと。

四.そのシステムの関係者たちとかかわり合い、話を聴く。 あなたとは異なり、ときに反対の見解をもつ人を探す。心地良いと感じる状態を超えて自分の幅を広げる。

五.システムの中であなたが果たしている役割を振り返る。あなたがしていること、あるいはしていないことが、現在の状態にどう影響しているかを検討する。

六.共感をもって聴く。他者の目線で、システムを見る。相手の身になって考えてみる。

七.自分の話していることや他者が話していることを聴くだけでなく、全体で何が話されているかに耳を傾ける。 一人ひとりの意見ではなくシステム全体で何が浮かび上がってきているのかを聴く。心の底から聴くこと。心で話すこと。

八.話すのをやめる。質問の横でキャンプする(質問から一歩下がる)ことで、答えが現れるのを待つ。

九.リラックスし、完全にありのままを受け入れる。 思考と心と意志をオープンにする。心が動かされ、変わることができるよう、自分自身をオープンにする。

十.これらの提言を試し、何が起こるかに気づく。 他の人々との関係や、あなた自身との関係、そして世界との関係において何が変わるかを感じ取る。そしてそれをやり続ける。

出典: 『手ごわい問題は、対話で解決する』 アダム・カヘン著

学習する組織の考え方を提唱したピーターセンゲは、その著書『最強組織の法則』の中で、学習する組織を実現するための5つの規律を挙げていて、そのうちの「チーム学習」のための具体的な方法として、物理学者のデビッド・ボームが提唱したダイアログを紹介しています。

ボームの説くダイアログのイメージは次のようなものです 。

時折、一族の人々は集まって円形に座る。彼らは何の目的もないかのようにひたすら話し続ける。何かを決めるというわけではない。リーダーもいない。しかし誰でもが参加できる。人々は賢い年長者には少しだけ多く耳を傾けるかも知れないが、基本的に誰でもが話すことが出来る。

話し合いは延々と続き、何の理由もなく終わる。そしてグループは解散する。しかし、そうした話し合いが終わると、全員が何をすべきかを知っているようにみえる。なぜなら彼らはお互いをよく理解しているからである。その後、彼らは小グループで集まり、何かをしたり、何かを決めたりする。(David Bohm "On Dialogue")

出典:『決めない会議』香取一昭、大川恒著

その他、様々な対話に対しての見解を集めてみました。

対話は、コミュニティとして我々を結びつけるのである。真の対話に参加すれば、次のような市民社会の価値観を創造して強化することができるだろう。

・互いの信頼を構築する
・互いに親しみと気安さを感じる
・互いに当り前のように協力し合う
・どうやってそういう共通の土壌を創るかを知る
・組織の境界を越えた共同作業のためのネットワークを作る
(たとえば、地方大学と電話会社が一つのプロジェクトに関わるなど)
・同じコミュニティのメンバーに同一性と共感を感じる

出典:『人を動かす対話の魔術』ダニエル・ヤンケロビッチ 著

「勝ち負けの生じない合意やアイデアを生み出すための会話 」 「心を一つにして行動することのできる状態を作り出すための会話 」

出典:『決めない会議』香取一昭、大川恒著

「対立や選択による痛みを通過して生まれる対話の場には、ほんとうのやさしさがある。」

出典:『ニッポンには対話がない』北川達夫、平田オリザ著

「雑談」「対話」「議論」の違い

「雑談」=<雰囲気:自由なムード>の中での、<話の中身:たわむれのおしゃべり>

「対話」=<雰囲気:自由なムード>の中での、<話の中身:真剣な話し合い>

「議論」=<雰囲気:緊迫したムード>の中での、<話の中身:真剣な話し合い>

「いくつかの選択肢があったうちのどれが正しいか、論を戦わせ、どちらかを捨てて、どちらかをとる」ということが「議論の」典型的なかたちであり、それを効率化したものが「いい議論」ということです。「対話」というのは、それとはまったく異なるプロセスです。勝ち負けを決めるディベートでもなければ、互いに最大の利益を追求する取引でもない。むしろ、前提となっている選択肢の可能性をもう一度探るとか、評価の基準そのものを再吟味するといった方向に話し合いを進めていきます。結論を出したり、意思決定を下したりすることが目的ではないので、「対話」が「議論」に置き換え可能というわけではなく、両社は補完関係にあります。

出典: 『ダイアローグ 対話する組織』 中原淳、長岡健 (共著)

人は「対話」の中で、物事の意味付け、自分たちの生きている世界を理解可能なものとしています。人が物事を意味づけるときに、一人でそれに向かっているのではありません。相互理解を深めていくには、単に「客観的事実(知識・情報・データ等)そのもの」を知っているだけでなく、「客観的事実に対する意味」を創造・共有していくことが重要となるのです。

出典: 『ダイアローグ 対話する組織』 中原淳、長岡健 (共著)